この対談は平成17年1月26日高野山大師教会本部にて、
木原秀成 主演スカイパーフェクTV『旅人-高野山編-』の撮影時に行われ、
特別編としてDVDに収録されたものを一部抜粋しています。
(出演:山崎泰廣・木原秀成・緒方美穂・佐野由佳)
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【山崎泰廣(やまさきたいこう)】
高野山伝燈大阿闍梨・種智院大学名誉教授。
1990年密教学芸賞受賞。
密教の伝統教学と阿字観瞑想の権威。
密教の源流と瞑想に関する研究・修行・講義のため
インド・ネパール・タイ・カンボジア・スリランカ・中国・アメリカ・イタリア・スイスなどを踏査。
海外でも高い評価を得ている。
【主な著書】
『阿字観瞑想入門』『密教瞑想と深層心理』 『密教瞑想法』『SHINGON』等
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木原 |
山崎先生、本日は大変お忙しいところありがとうございます。
真言宗の大阿闍梨様という立場だけでなく、
社会・政治・教育など幅広いご研究と実績から、
お話頂ければと思います。
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世界に誇る世界遺産紀伊山地の参詣道
木原 |
まずは、高野山と言いますと、
『紀伊山地の霊場とその参詣道』が2004年に世界遺産に登録されましたが、
その意義からお聞かせ頂ければと思います。
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山崎 |
世界遺産というのはたくさんありますが、
紀伊山地の3ヶ所の霊場、熊野と大峰とそして高野と。
しかもそれを繋ぐ参詣道が全体で一つの遺産と認められたのは、
遺産の中でも非常に特色がありますね。
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木原 |
熊野は神道、大峰は山岳信仰(修験道)、高野山は真言密教の道場ですね。
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山崎 |
はい、しかも神仏習合といって、
仏様が日本に生まれられて神様となったという関係があるんです。
ですから、曼荼羅は仏様と神様が融合して一つの姿になっているわけです。
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緒方 |
私はお寺と神社は別のものだと思っていました。
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山崎 |
大峰の日本古来の山岳信仰の中には、かなり密教の影響を受けた修行方法もあるんです。
世界では宗教という名のもとに、争いが多いですが、
神道と仏教、あるいは密教というものが、異宗教でありながら、
融和しながら共に尊敬し共存している。
しかもそれぞれの特色・特性をきちっと生かしている。
これはすごい事じゃないですか。
それから遺産には、過去の栄光とか自然の遺産というのがありますね。
しかし紀伊山地の場合は、どれも自然と人間の交流の中で培われた、
そして現在も息づいておるんですね。
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山崎 |
紀伊山地の場合、世界の森林破壊とか環境破壊とかのモデルになりますよ。
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緒方 |
人間と自然と仏と神の、すべての共存ということですね。
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佐野 |
今までの日本の遺産も誇るべきものでしたけど、
今回のはメッセージ性も高いし、
私たちが世界に「ありますよ」ってほんとに誇って言えますよね。
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密教とは
木原 |
その中で高野山というと弘法大師様、また密教の聖地ですが、
密教について少しお話いただきたいのですが。
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山崎 |
密教を広く言いますと、隠されたその奥に何があるか解らない、
不思議さと恐ろしさ、非常に俗的なものも崇高なものも、
良いも悪いもどちらも含まれておりますよね。
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山崎 |
インドで起こった密教は4~5世紀までは雑密と言いますね。
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木原 |
占いやまじないとか色々なものが混ざって、
それなりにご利益があるけど、きちんとした理論とかが無いということですね。
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山崎 |
仏教はいろいろなものを取り込んでいくんですね。
ところが7世紀頃、大日経が現れました。
大永劫に続いてる大宇宙そのものが大日経なんです。
何々菩薩とか如来をたくさん知っているでしょう。
大日如来を上にすえる事によって、
全体としてまとまっていなかったものが繋がっていったのです。
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木原 |
会社で言うと社長さんがいると、会社がまとまるようなものですね。
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山崎 |
同時に悟りに向かうための理論体系(正純密教)がきちっと出来てきたんですよ。
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木原 |
弘法大師は「即身成仏」と言って、
生きたこのままで、幸せになれるよと言われていますね。
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山崎 |
もっと仏さんと親しくなってもらいたいと思いますね。
お大師様は集大成された密教を唐から持ち帰って、
その上に独創性をもって、伝統の密教を完成しました。
それが真言密教です。
真言宗というと、日本の中のある一つの宗派ですが、
真言密教と言ったら、むしろ仏教からはみ出て、
仏教を包むような大きさになるんです。
そして、密教には2種類の秘密的な要素がありますね。
『衆生秘密と如来秘密』です。
『衆生秘密』というのは『事実(真理)はみな公開』されているけれど、
衆生はその公開されてる真理を知ることが出来ないので、衆生秘密と言うんです。
例えばニュートンはリンゴが落ちるのを見て、引力を知ったでしょう。
リンゴが落ちるのはみんな知っている。
それを、発見して発明になるわけです。
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山崎 |
『如来秘密』というのは『向こうから隠す』ということです。
数学でも中学生に微分や積分を教えても無理ですね。
段階をおって教えるでしょう。
もったいぶって隠しておくとか惜しんで隠しておくとかいう事じゃなく、
そのレベルまでいけば教える。
ところが、そのレベルまでいくと逆に当てなければいけないんです。
当てなければ罪なんですよ。
だから密教は、解った人から見れば、実に明晰・整然なんです。
ところが解らない人から見れば、混沌に見える。
混沌としたのは怪しい密教ですね。(笑)
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木原 |
今、事件が多かったり、どういう生き方をして良いかとか、
子育てが解らないとか。沢山いらっしゃるけど、
密教の中にはいくつも参考というよりもっと深い、
役立つものが隠されてますね。
そういう意味で若い人にはもっと触れてほしいのですが、
先生、お大師様は、何を教えたかったんでしょうかね。
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大宇宙の教え
山崎 |
今、先行き不透明と言いますね。
経済がどんどん成長して、そしてバブルが弾けた。
いかにも自然現象に見えるけど、あれは人間が作ったものですよ。
それから、科学もどんどん発達して便利になりましたね。
しかし反面、悪い要素がいっぱい出てきました。
お大師様の初めての仏教体験は仏門に入り唐に渡られる前で、
求聞持法という、虚空蔵菩薩のご真言を50日で百万遍唱えるんですよ。
これは大変な事ですよ。
それを高知県の室戸岬の洞窟でされた。私も体験しましたが、
目の前に見えるのは空と海。そして大小さまざまな波の音。空には宵の明星。
真言を唱え続けていると、そのうち全体の音が調和していく。
地球が鼓動しているような感覚ですね。
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山崎 |
全宇宙の光のまっただ中にいる。大宇宙と一体になった、
宇宙そのものが、命のみなぎっている世界。
生き生きとした世界。
自分と大宇宙が繋がっているそういう世界ですよ。
大日経は、初めからこの世界を説いているのですが、
お大師様はこの大日経を求めて唐に渡られたのですね。
本来は人間も社会も宇宙とひとつに繋がっているのですが、
それを自我で切っていく。
そして国家で切っていく、民族で切っていく、宗教で切っていく。
そうやって切っていくとこから、争いと不幸が始まったと考えて良いのではないですかね。
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木原 |
一つの大宇宙から見れば、みんな兄弟とか、親子とか、全部繋がって、
それぞれが生かし合っているのに、
人はそれぞれが好みや欲みたいなもので、
生きてきた文明も、技術も、社会も、その繋がりを切ってしまって。
そういう事が今の混乱になっとるという事ですね、先生。
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山崎 |
そうですね。密教では、欲望こそ「尊い」と言うんです。
天地宇宙は素晴らしい欲で、我々を内から開発しようとしている訳です。
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緒方 |
欲はダメだっていうイメージがありますが・・・。
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山崎 |
大欲清浄。普通の欲は自我があるから嫌われるんです。
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木原 |
使い方を間違ってはいけないけど、欲は持っても良いんだよということですね。
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科学の進歩と人類の進化
山崎 |
今の科学も善か悪かという疑問があるんですが、善悪無記。
つまり、善でもない悪でもないんです。
例えばロボットのボタンを押したら歩くとするでしょう。
そして人間を踏み殺したとする。
ところがロボット自体は悪じゃないでしょ。
しかし、あの人を踏み殺すと思って使ったら悪になります。
善悪は人間の問題であって、科学は善悪じゃないんです。
だから、人間が科学を使いこなすだけ、
進化しなさいということなんです。
では、どういうのが進化した人間ですか?ということになります。
倫理道徳が非常に落ちたと言われますが、倫理道徳を守った段階では足らないんです。
『宇宙と意識が繋がる人間』になることです。
本来繋がっているのですが切断しているんですね。
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木原 |
大昔の人達っていうのはむしろ、繋がっていたと思うんです。
自然と共尊共生したり、皆と助け合ったり。
ところがだんだん科学が発達してきて、
あるいはそれに伴うものが発達して来たが為に、
人間が中心になって、人間は何でも出来るんだと、やってもいいんだと・・・
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山崎 |
そうですね、紀伊山地の遺産でもそうでしょ。
繋がっておるでしょ。
例えば冷房、暖房、車、そして今だったら携帯電話、全部遮断しとるでしょ。
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緒方 |
まずは根本を知らないとダメだっていう事ですね。
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山崎 |
それと同時に進化する、太いパイプラインで繋いでいくことです。
宇宙と意識が繋がっていけば、意識だけじゃなく、
本当に自分の存在する意義、ありようが、
例えば、世界の中の日本にいれば日本人だと。
そして今、自分は属する会社の人間だというように、
宇宙の意思に繋がった人は、その世界が調和する活動が出来るわけですよ。
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木原 |
紀伊山地のように、お互いがお互いの特色を大事にしながら、
しかもお互いが共尊しあって、また生かし合ってる。
そういうものが、私は日本文明・文化で、
それをお大師様は、まさに大宇宙の中で、発見されたんじゃないかと思います。
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山崎 |
そういう事ですね。それを私は普遍的個性と言ってます。
普通の個性は自我的個性、これは自分にも良くないし、他人にも良くない。
しかし、自分をもっと深く々々生きて、
宇宙と意思が繋がっていくと普遍性を持つ。
ほんとは仏さんとは、実はそういう人なんですよ。
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木原 |
最近の日本人は宗教に対する嫌悪感を持っていますが、山崎先生もおっしゃるように、
もう一回宗教というものの本質を、見直してみる価値はありますね。
宗教をするとかしないとか、そういう事じゃなくて、
触れてみて、本当のことって何だろうという事を知る。
そうすることで、これから人類が平和になっていくんじゃないかなと、私は感じますね。
私どもの大学でも運命創造学とか教えてますが・・・
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山崎 |
世界中の人達が、外から見たら別々に見えますが、みんな意識が繋がっていく。
本来繋がっているから、何かあったら力を合わせて一つになるでしょ。
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木原 |
地震なんか起こるとみんな助け合いますね。あれが原点ですよ。
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緒方 |
宗教を勉強するというよりも、自分のルーツを勉強するということですね。
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山崎 |
そう、ルーツ・原点ですよ。宗教って楽しいでしょ。
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木原 |
大いに楽しまなくちゃ。
人類が破滅か継承(創造)かの選択に迫られている時、
今こそ弘法大師空海が完成させた密教の宇宙観・人生観というものに
目を向ける価値がありますね。
むしろ、真言密教の中にこそ21世紀の混迷社会を開く心(魂)があることを、
山崎先生から教えていただきました。
先生、本当にありがとうございました。
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