日英同盟の破棄、そして重要な戦略パートナーを失い孤立の道へ
第一次世界大戦中、欧米列強はアジアを顧みる余裕は無かった。この間、日本は①ドイツ権益の譲渡②満州における権益の拡大延長を内容とする対華21カ条を要求する。

これは列強に諮ることなく単独で「東洋の平和」をねらうものだった。疲弊した欧州列強に代わって国力を増大した米国は、ワシントン会議において、四カ国条約(日英米仏)の締結をリードし、これにより日英同盟は破棄されたのである。ここに至って、日本は東アジアにおける重要な戦略パートナーを失い孤立の道を歩み始めるのである。

この歴史の流れを総括すると、日露戦争の勝利から朝鮮併合、主権線は朝鮮まで拡大し利益線は南満州まで拡大、米国の門戸開放政策や中国のナショナリズムに直面する。日本は軍事力で利益線を確保、次に満州国樹立により主権線は満州まで拡大、その外側が利益線となる…。次々と増殖して日中戦争に突入した結果、国益が日本の国力を越えたことにより破綻したのである。

日英同盟の教訓
①同盟20年の前半は、列強の帝 国主義による植民地争奪の時代であった。南下するロシアに対しイギリスに助けられて辛うじて勝利した。同盟の効用は大きかった。中盤は、三国協商と三国同盟の対立に引きづられて、同盟の情誼とドイツの権益の東洋からの一掃をねらって、第一次世界大戦調策により、英国との国益が反し空洞化した。同盟は永遠ではなく、国益の変化によって、同盟益がなくなると破綻するのである。

②日英同盟の間、米国の外交方 針が変化した。セオドア・ルーズベルト大統領(共和)は、国益を重視した。日露講和の好意的仲介は国益に基づくものであった。一方ウイルソン大統領(民主)は道徳的価値を信奉した。

日本の国益追求のパワー・ポリティックス政策は欧州列強には有効だったが、ウイルソンには通じなかった。日本は、この変化が理解できないまま、アメリカが友好的で有り続けるという錯覚から抜け出せなかった。同盟破棄によって、英国のかすがいがなくなると反日の逆風を直に受けることとなった。

③日露戦争の結果は植民地化された各国に民族主義を喚起することになった。また新しい理念(共産主義)に基づくソ連、中華ソヴィエト共和国が出現した。

④中国において、日本軍は各地の戦闘では勝利したが、持久作戦を継続すれば、利権国6カ国が日本と対立するであろうと言う中国の読みにはまった。中国の戦略の時間的スパンは長い。

⑤日露戦争の成功体験がその後の国防力整備の足かせになった。1907年の帝国国防方針では陸軍の対象国はロシア・フランスで、海軍はアメリカだった。国防力統合の考えは微塵もない。

⑥地政学的に外国への依存度の高い日本(島国、経済構造)は政治・経済・外交上孤立してはならない事が大きな犠牲の下に明らかになった。

安定の礎石となった日米同盟50年
今年はサンフランシスコ講和条約と日米安全保障条約が締結されて60年目、改定安保条約が締結されて50年目である。日米両政府は、改定署名の日、共同声明で「同盟をアジア太平洋地域の『安定の礎石』として深化」ヘの決意を表明した。

今のところ新政府と米国政府の間の深化についての具体策が見えていない。

日米同盟は我が国の死活的国益に合致している。

原点に帰って我が国の死活的国益に照らして、日米同盟を考えてみる。国益とは何かについては、これだけで大論文になるのだが、ここでは「国益と外交(小原正博)」から引用する事としよう。彼によれば、日本の死活的国益は次の通りである。

①アジアの安定

②日本周辺における敵対的国家の出現の阻止

③国内外の日本人の生命・財産に対するテロリストの攻撃の防止

④自由で開かれた国際経済システムの維持・強化

⑤日本が必要とする石油の90%を依存する中東の安定

⑥シーレーンの安全

この項目は、現在の世界情勢を勘案すれば、我が国が求める死活的国益としては妥当であろう。

これに対し改定安保条約はその前文において

①政治的協力関係の強化

②経済的協力関係の強化

③国連憲章の尊重と平和主義の再確認

④個別的、集団的自衛権の確認

⑤極東の平和と安全への共通の関心が謳われている。

この条約は、我が国の死活的国益を十分にカバーしている。

また米韓条約が単に軍事同盟であるのに対して、協力の範囲を経済分野まで広げているのは、NATOと同じである。

本文の5条の片務性をみても、これほど日本にとって有利な条約はない。米国が不平等であるにもかかわらず、寛容だったのは、冷戦下、敵を少なくし味方を増やす戦略が国益に適うと判断したからだろう。

理念を同じくする民主主義国家として復興した日本は、経済大国となり、アメリカと共に世界経済をリードした。日米同盟は世界のなかの成功した同盟として半世紀を経た。

96年日米安保共同宣言が冷戦後の日米同盟の役割を「アジア太平洋地域に平和と安定をもたらす公共財」と定義したのは当然である。

今後引き続きこの同盟が継続されることが望ましいと思う。

二正面作戦は放棄、が、依然として前方展開戦略は維持される
米国政府は2月上旬、新しい「4年ごとの国防戦略の見直し」を発表した。従来アメリカは、中東、北朝鮮事態が同時に発生しても、二正面対処作戦が可能な戦力の維持に努めてきたが、これを止め、多様な脅威(非国家勢力のテロ、大量破壊兵器の拡散、サイバー空間での軍事行動)に対処することを重視し、日本、韓国などアジア太平洋の同盟国に核、通常戦力による拡大抑止を提供するとともに、同盟国の役割拡大を求め共に戦うというのである。

日米同盟では、日本の集団的自衛権の行使を認める防衛協力の強化が求められている。また北朝鮮事態への抑止効果が低下する分、沖縄における海兵隊の対処能力が更に重要となったのである。

海兵隊は「American's First」といわれ、常に先頭に立つ即応戦力である。米国は、米軍再編によるグアムヘの移転があっても主力は残し、マハン以来の前方展開戦略は保持することのようだ。

これによって朝鮮半島、台湾、尖閣列島の安全は保たれるのである。普天間基地問題は、この戦略を考慮の上で解決されることとなろう。

日米同盟が日英同盟の同一の軌を歩まぬことを望む
太平洋および東南アジア諸国において、日米同盟の揺らぎを望んでいる国はない。韓国、台湾、シンガポール、オーストラリア等々の各紙の論調で明らかである。

軍拡路線をひた走る中国ですら例外でないという人もいる。筆者は、首相の憲法改正私案を読んだことがあり、憲法改正と自衛軍の創設による自主防衛論者とみている。

このことと、核の抑止の維持という現実を受け入れ、日米同盟を基礎においた東アジア共同体構想であるとすれば、それは、マサチューセッツ工科大のサミュエルズのいう「ゴルディロックス・コンセンサス」に近いのである。その意味でなら、「緊密で対等」も理解できる。

もしアジア版の多国間安保機構を設立し、結果として日本防衛上の米軍の依存度を低下させる構想であるとすれば、逆に米国の益々の信頼を得るために防衛力の増強が必要であり、韓国・ロシア・中国等隣国の信頼の確保が前提となろう。

この場合、予期せぬ軍拡競争にならぬかの心配もある。政権交代のこの時期、独善や性急さは孤立の道へのとば口にあると考えて欲しい。日英同盟の結果をもう一度顧みてほしい。

おわりに
オバマ大統領の核に関するプラハ演説を知る人は、ノーベル平和賞受賞時の演説の厳しいリアリズムの論調に驚いたはずだ。この驚きは、ウイルソン大統領(民主)の提案、その後の国際連盟不参加の状況にも似ている。

これがアメリカの政治なのである。論ずる対象の、今か将来かという時間的深さ、論ずる時の立ち位置によって、理想と国益が往来するのである。(この辺の研究はキッシンジャーの『外交』やケーガンの『ネオコンの論理』が分かりやすい)。

神経を研ぎ澄まして真意を把握することが必要だ。今、アメリカは日米同盟についての日本の揺らぎに、寛容に忍耐している。

日米同盟が、太平洋・アジアの平和に不可欠と深く認識しているからだと思う。「アジアと米国は太平洋でむすばれている」という言葉がそれだ。日本が歴史の教訓を顧みて謙虚に、賢明に対処することを切望してやまない。